おんなしゃちょう何某の雑記〜2024.3リターンズ〜

おんなしゃちょうは 2024/3 出所しました。

拘置所にいた話 その4 被疑者と独房

「はい、あなたはこれからここでは名前ではなく呼称番号で呼ばれることになるんだけど。番号は、8番。おっ、末広がりじゃん。」

 

「・・・はい。ありがとうございます。」

気を遣ってくれた。

 

私はここでは8番という名前になったが、テレビでよくある「おい、8番!」などと呼ばれたことは無かったように思う。

たぶん、刑務官はいちいち出入りする収容者の番号なんて覚えていられない。

拘置所は出入りが多い。

 

その代わり、私は120日も同じ独房にいたのとその場所が刑務官の詰所の向かい近くにあったからか、部屋番号の「17号室の人ー!」と呼ばれていた。

 

そして、女性刑務官たちは、居室の棟の職員も意外にも親しみ易く、中には私の在所中顔を合わせる度に気を遣ってくれる人もいたりした。

 

番号が決まると靴のサイズを聞かれ、所内のサンダルを用意されて履き替えた。女性は濃いピンクのような赤色らしい。

 

隣の大きな部屋に移動し、8番と書かれた札が掛けられた撮影台に立ち、台に顔を乗せて写真を取る。

 

さらに移動し、レントゲン撮影。

 

それも終了して、荷物の整理と着替えをするための部屋に手荷物を持ちながら移動する。ここからは2階に上がり、そこはどうやら女性だけのフロアのようだった。

 

心なしか、女性空間というのはその前のところよりも雰囲気が明るい感じがする。

 

着替え部屋ではシャワールームがあり、首から下を洗い流したあとはタオルで体を拭き、頭からつま先まで身体の傷などの検査を受けた。私は同性に裸体を見せるのは何ら苦痛は無いが、繊細な人は、360度事細かく随所まで確認されるため、辱めを受けた様な気分になってしまうかも知れない。

 

渡された肌着、所内着に着替えて席に着く。

 

男性刑務官がやってきて、起立し、勾留執行の宣告をうやうやしく受ける。

このような形式的なやり取りの際には本人確認の為に番号を述べる。

声が大きいと褒められた。

 

女性刑務官に連れられて居室に移動する。間取りはweb上にいくつも挙がっているようなのでそれを参照してください。

たぶん、男女変わりはない。

 

私がいたB棟は全て独房だった。

17と書かれた扉が開いており、そこが私の居室となった。

 

畳が、い草の模様のついたビニール。

床に直に座るのはどれくらいぶりなんだろう。

座卓の上に所内生活の心得という冊子と補足資料を入れたファイルがある。

 

そうこうするうちに、昼食となった。

配当係の受刑者が何か大きな声で棟内に声掛けをするが、何を言っているのかがわからない。

 

「配当、平皿一枚、大椀一枚」

この時は、真ん中が仕切られた丸皿と大きいお椀のみ

 

「配当、食器三枚」

この時は、丸皿と大きい椀と小さい椀の全て

 

この2つだと分かるのに三日かかった。

平皿にはおかずが盛られ、大椀には汁物、小椀にはデザートらしきシロップ漬け果物だったりアンコだったりした。

 

ご飯の時は、ここに吉野家の丼ぶりのような大きさに麦ご飯が入った椀が配膳コンテナより配られる。

 

食器は、居室に備え付けられていた。

食器口に空の食器を乗せると、自分の居室に配膳コンテナが来て盛り付けされて返される。

 

私は仕事柄海外にいることが多かったので、口にするものやその味覚が出来るだけ均一であるように、心掛けていた。

場所場所で味覚に特徴のあるものを食べていると、いわゆる和食が恋しいとか醤油が欲しいとか切望するようになり、それは海外を渡り歩くにはかなりのストレスになる。

 

それこそ周遊チケットで一周する時は移動のストレス、時差のストレスにさらに食べ物のストレスが加わってくるとナーバスになることが経験上分かっていたので、例えば、

 

バナナやオレンジ、ぶどう

葉物野菜

ナッツ

ローストした鳥肉

質素なハードブレッド

 

こんなようなものを、どこに行っても基本食にしていた。

食べ物アレルギーにもならないように、かなり気を使っていたし(異国でアレルギーを起こすと原因を特定するのが非常に大変)、機内食ベジタリアンやアレルギー食、ローフード食を指定すると大体どのエアラインでも同じようなものが出てきたので安心だった。

 

注)唯一、ベトナム航空のロー食は得体の知れないものオンパレードで、食べられなかった。CAにこれは何ですか?と聞いても知らないと返された。怖くて食べる気にならなかった。

かなり飛行機マスターだったので航空会社毎の違いはのちに記したいと思う。

 

そんな私にとって、拘置所の食事は、大人の給食に呼ぶに相応しいものだった。

懐かしささえ覚えた。

 

味は・・・全体的にもの凄く薄い。若い人から年配まで幅広く対応するには、こうするしか無いのだろう。

 

ゆっくり食べることもできず、10分もしないうちに残飯を回収しにコンテナがやってくる。

 

初日なんて、それこそ時間配分なんてわからないから、汁物を半分までいったところであっという間にコンテナが目の前まで来てしまった。

来たら、その時点で残っている食事は下げるしかなかった。

 

慣れないルール、慣れない空間に初日の半日でどっと疲れていたら、食器口が開いて、若い刑務官から声が掛かった。

 

「調べ。」

 

何を調べるんですかと聞き返す間も無く、問答無用で扉が開けられる。

 

居室を出て廊下を歩き、先ほどの着替え室まできた。越えた先に、調室と書かれた部屋がいくつかあった。それぞれ扉の上にはランプがあり、一番手前の扉の上のボタンが、緑色に点灯している。

扉には《可視化中  ノックに注意してください》と書かれたマグネットが貼ってあった。

 

誘導の刑務官がその扉のノブを動かす。

動かすだけ。扉の前で待つよう言われる。

 

開かれたその先には、広い取調室があり、私に逮捕状を広げた検事が待ちくたびれたような表情をさせながらこちらを見て会釈した。