2024年3月7日、しかと踏みしめたおよそ五年振りの塀の外。その景色はまるで変わっていた。
私は完全に異星から来た人となっていた。
きっと浦島太郎もこんな気持ちだったに違いない。
まずはアラフィフのすっぴんで出歩くのは世間様に申し訳がない。
出所したらソッコー行くと決めていた、立川駅のメガドンキの化粧品売り場に向かう。
しかし、店内に響くあのどんどんドン🎵ドンキー🎶の音と押し寄せる人の波と陳列された無数の商品の色彩で入店後すぐに酔ってしまい、トイレで吐いた。
10分後ようやく復活し、念願の化粧品を買う。
帰りに出入り口付近でお菓子いくつかを買うつもりが。
ついに出所あるある第一弾が発動した。
欲望リミッターが外れた。
私は目にするお菓子を手当たり次第にカートに山積みする異星人となり、レジのお会計という画面に示された『合計』は○○万円を超え、遂にはレジ係の人に全てお買い上げで大丈夫ですかと不安そうに尋ねられた。
しかし、絶対に買うと心に誓っていた肝心のものは買い忘れる。
父に託していた私のスマホ、五年振りのiPhoneが私の手元に戻ってきた。
扱い方を完全に忘れて手に持ったまま暫し呆然。
右手が動かない。
因みに6である。
何気に父が手にしているスマホを見る。
ドヤ顔で「お父さんのは15」と返された。
取り敢えず飲み物買うかと入ったコンビニの会計で、店員の言っていることがわからない。
焦って財布から札を束ごと落下させた。
(出所時に作業報奨金を束ねて受け取り、そのまま財布にしまっていた)
お恥ずかしながら、私はもう身も心もいっぱいいっぱいで限界だった。
そして帰宅してから今日この時までひたすら口にタベモノを入れ続けている。
いくら食べても満腹にならない。
これも出所あるあるらしい。
最早味覚も麻痺してした。
顔も手足も過剰糖分と塩分でパンパンに浮腫んでいる。
さらに毎晩夜更けにトースターで木村屋の食パンを焼いている。
赤々と熱を帯びた庫内を見つめていたら、
つつっと涙が頬をつたって落ちた。
みじめだ。
まるでお腹を空かせた野良犬のようだと思った。