おんなしゃちょう何某の雑記〜2024.3リターンズ〜

おんなしゃちょうは 2024/3 出所しました。

拘置所にいた話 その9 罪状認否を覆す

拘置所では、GW期間もきっかりカレンダー通りの休日となる。

 

一日のスケジュールも休日仕様となり、運動の時間もないしシャワーの時間もない。差し入れも届かない。

 

休日は面会も出来ないため独居室の扉を開けることは無く、3畳の上で何日も過ごした。

 

私は、接見禁止の間に出すことのない両親への手紙を毎日書き続けていた。それが約一カ月の期間に膨大な量となったため、思い立って読み返してみることにした。

 

読みながら、ふいに連休前に接見した弁護士の言葉を思い出した。

 

 

 

「裁判という劇場ではいつでも舞台から降りることができます。それこそ、公判中に突然降りることだってできるんです。でも、一度降りたら二度と舞台に上がることは出来ません。」

 

 

 

ぐるぐる頭の中を回る。

連休中に何度もこの言葉を思い出すようになった。

 

 

GWのなか日だっただろうか。

午後の陽だまりがほんの少しの窓のサッシから

注ぎ込んでくる時にラジオからRachel PlattenのFight Songという歌が流れてきた。

 

私が好んでよく聴いていた歌だった。

久しぶりだなあ。ロサンゼルスからラスベガスにドライブで行く時に聴いていたなあ。

 

そんなことを思いながら、私は昼寝の時間ということもあり、読書も一息ついて横たわる。

 

 

 

 

This is my fight song
これは私のファイトソング
Take back my life song
私の人生を取り戻す歌
Prove I'm alright song
私は正しいということを、自らで証明する歌
My power's turned on
力がみなぎってくる
(Starting right now) I'll be strong
今まさに感じる  私は強くなる
I'll play my fight song
私は私のファイトソングを奏でる
And I don't really care if nobody else believes
誰も信じてくれなくても構わない
'Cause I've still got a lot of fight left in me
なぜなら私の中にはまだ戦う力が充分にあるのだから

 

意訳:すごいおんなしゃちょう

 

 

 

 

仰向けになって天井の立て付けスピーカーを見ていたらとめどなく涙が溢れてきた。

 

自分でも、止まらない涙にびっくりした。

 

 

辛い訳でもない。

悲しい訳でもない。

 

 

まるで自分の気持ちを鼓舞するかのような歌詞に、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ち、午後の日差しで光ってみえた。

 

 

涙を流しながら、わかった。

この歌を聞いて、言葉に出来なかった自分の気持ちをようやく理解した。

 

 

 

 

私は、負けたくないんだ。

勝ちたい訳ではなくて。

ただ自分を圧する何かに負けて真実を伝えることができないことだけはしたくない。

 

 

 

 

体を起こして部屋をぐるっと見渡してみる。もちろん、数分前と何も変わらない有り様だけれど。

 

 

 

でも、眼に映るものが何か違う。

 

 

もう一度ゆっくり見渡す。

 

 

すると、喪失感と絶望感とが入り混じったトーンの独居室が少しづつ変わった景色に見えてきた。

 

 

部屋の窓とほぼ締め切った一番外側のサッシの間には見回り用の外廊下があるのだが、そこに細々と葉を伸ばしている観葉植物の鉢が置かれているのに気付いた。

 

 

 

私は今日まで毎日窓際には来ていたのに、手を伸ばせば届きそうな目の前に佇むこの存在すらわからなかったのか・・・

 

 

 

弱々しくとも葉を茂らせている姿はこの日から私を勇気付ける存在になり、そしてここでの私の唯一の話し相手になった。

 

 

 

弁護士の接見が待ち遠しくなった。

きっと弁護士は私の変わり身に目をキョロキョロさせて驚くだろう。

 

何故かと聞くだろう。

 

 

歌です、と答えたらまたキョロキョロするに違いない。

でも、私が選んだ弁護士なら依頼人の私のために全力を尽くしてくれるはずだ。

 

誰にわかってもらえなくともよい。

でも真実を主張できない自分に負けたくない。

 

 

 

気持ちを持ち直してきたのが5月GW明け。

 

逮捕から拘置所に勾留後、二カ月が過ぎていた。

 

 

いよいよ弁護士がやってきて、私の思いを聞いた当人はやはり目をキョロキョロさせた。

 

そしてアクリル板の向こうで真っ直ぐに私に向かい、意向を尊重するが土下座して詫びるよりも罪が重くなるかもしれないが構わないかと聞いてきた。

 

私は、構いませんと答えた。

 

不思議なことだが、検察側の起訴状の事実を争うということは反省をしていないと見なされるらしい。

 

因みに、世間をお騒がせして結果的に法令違反をしてしまい心から100%反省しているが、検察側の主張には誤りがありそこを争いたいというポジションはあり得るか、と聞いたら弁護士は困った顔をしながら難しいですねと呟いた。

 

 

私は、司法の七不思議だと思う。

 

 

 

それからは罪状について一部争うということを裁判所と検察に通知し、弁護士と共に検察より提出された証拠について不同意にするもの、一部不同意にするものを日々怒涛のように洗い出していった。

 

 

不同意とは、裁判における証拠として裁判官に提出することを拒否するということだ。

一部不同意は証拠の中の一部について拒否すること、例えば供述調書の中の一部を黒塗りする等。

 

もちろん拒否をすれば検察側はそれに代わる証拠を出したり証人喚問をしてくるし、当たりもキツくなってくるのだが、致し方が無い。

 

 

自分が向こう側の人間だったとして、

 

やったー!自白を取ったよ。

えっ?裁判では一転して否認するの?

許せん!

 

と思うのが自然だから。

 

 

それでも私は真実を主張する為にできることをやるつもりでその為の傷も負う覚悟だった。

 

 

 

争う姿勢を聞いて、両親は泣いていたらしい。