おんなしゃちょう何某の雑記〜2024.3リターンズ〜

おんなしゃちょうは 2024/3 出所しました。

拘置所にいた話 その11第716法廷(仮)

面前には、私の知る法廷の景色が広がっていた。

 

唯一の違いは、見る景色が傍聴席からではなく被告人席からだということだ。

 

両脇に刑務官に挟まれるように手錠をしたまま長椅子に座って裁判官の入廷を待つ。

 

後ろには私の弁護士三名が弁護人席に座り、向かいの検察官席には二名の検察官の座っている姿が見えた。

恐る恐る視線を向けると、二人とも知らない顔であり、今の私の担当は特別捜査部から移った特別公判部のこの二人なのだと知った。

 

目が合いそうで、もし目が合ったらどうしたら良いか、知らず鼓動があがり急いで目を逸らした。

 

裁判官が入廷する。それに合わせて刑務官が私の腕から手錠を外し書記官の号令に合わせて全員が起立をして一斉にお辞儀、着席となる。

 

 

 

日本らしい。

 

 

 

初公判は、

 

人定質問

検察官の起訴状朗読

黙秘権の告知

被告人の罪状認否

証拠調手続き

 

が行われる。

 

 

人定質問とは、被告人である私個人及び法人代表の私に、住所氏名職業本籍などを尋ねるものだ。

 

 

起訴状朗読では、被告人は誰か、どのような犯罪を行ったのか、その犯罪は何法の第何条の何罪にあたるのかを検察官が起訴状に沿って読み上げる。

 

 

終えると検察官は起訴状を書記官に渡し、書記官より裁判官に提出される。

 

 

そして被告人の罪状認否に移り、私は裁判官に促されて裁判官の前に立つ。

 

裁判官は私の目を真っ直ぐに見ながら、ゆっくりと黙秘権について私に説明をする。


黙秘権とは「被告人は自分に不利になることは言わなくていい。但し発言したことは利益不利益に関わらず全て裁判の証拠となる。」というものである。

 

その上で、裁判官より「被告人は公訴事実に対して事実であるかそうでないか」と問われ、私は思いの丈を述べた。

 

席に戻ると次は検察官の証拠調手続きに進み、冒頭陳述として再び検察官が長い書面を読み上げる。

 

被告人の身上,経歴,前科・前歴の有無,犯行に至る経緯,犯行状況,犯行後の状況,本件発覚の端緒,情状など

 

自白の場合はさらーと読んで終わり、否認の場合は長く長く読み上げるものらしい。

私の場合は15分から20分くらいの間検察官は物凄い早口で息継ぎも惜しく読み上げていた。

 

たぶんあんなに早口では法廷内の誰も裁判官ですらまともに内容は聞き取れないと思うのだが、読み上げ自体はどうやら儀式の体裁となっているようで裁判官も書記官も顔色ひとつ変えず声に耳を貸しているようだった。

 

 

そして証拠の採用と同意を検察官と弁護人双方が行い、初公判は終了した。

 

 

 

時間にしておよそ40分程で、私の初めての公判という名の序幕は思いの外あっけなく閉じた。

 

 

そして、3月のあの日突然社会から引き離されて今日この時を迎えるまでの3ヶ月間の数えきれない苦しみや悲しみ、後悔、絶望、重圧、そういったがんじがらめの負の思いは初公判を終えたと同時に、ふぅと消える。

 

 

本当に全身の力が抜けた。

 

 

その姿(裁判)が何たるものかわからない未知ゆえに凄まじい恐怖を感じていた。

その恐怖から己を守るために全方位から自分で自分に最大の圧力をかけていたものが、正体が見え理解できた暁に自然に解き放たれていったのだった。

 

 

 

 

裁判官が退廷すると再び手錠をかけられ、刑務官と共に私は法廷を後にした。

 

地下までエレベーターで降り、留置場の元いた部屋に戻される。

 

 

そこからまた声が掛かるまでしばしの時間を過ごし、護送車かと思いきや黒のミニバンに乗り

刑務官数名以外は私一人の乗車で小菅の拘置所に帰ってきた。

 

 

拘置所の自室がある二階の2B棟の扉が開くと、廊下の照明は一段落とされて薄暗く部屋からはラジオが聞こえていた。

 

 

仮就寝の5時を過ぎていた。

 

部屋内には夕食が保温箱の中に入れられていたが、冷めていた。

それでもここ数日の中で一番美味しく感じた。