おんなしゃちょう何某の雑記〜2024.3リターンズ〜

おんなしゃちょうは 2024/3 出所しました。

親方日の丸が派遣に来た話

ある日の派遣先企業で、同じ現場でのスタッフに風貌が明らかに派遣風ではない中年の男性がいた。

 

言葉遣いがやたら丁寧で人との距離感を測り、腰が低い。事あるごとに小さくお辞儀をする。

 

私も他人のことが言えない事情で派遣の仕事をしている訳なのだが、彼は特にその雰囲気で目立っていた。

 

 

 

箱から箱へ商品を組み替える作業で同じチームになった。

 

 

 

ワケあり風な派遣が2名・・・

 

 

 

しかし、彼の仕事振りは見事だった。

軽作業の繰り返しでも丁寧かつ手際が良く一切手を抜かない。

 

私なんぞ簡単単純作業の繰り返しは本当に苦手だ。

疲れてくると意味もなく難しいことを考えてみたり、作業工程を頭の中で数値化してみたり、利き手を変えて作業をしてみたりと遊び出してしまい、挙句それが手を抜いているように見えて注意されたりしてしまう。

 

作業台の向かい合わせで、私は感心しながら彼を見ていた。

 

動きが早いが、雑ではない。

 

 

 

あの男性は何者なんだろう。

 

休憩時間になり、そんなことを思いながら休憩室へ向かっていると男性と鉢合わせた。

 

二人で少し立ち話をした。

 

私はあまり他人に興味がないのだが、この現場に余りにも似つかわしくない所作のこの男性に、さすがの私も興味を持った。

 

 

 

その男性は、地方公務員であった。

しかし、余りに役所の仕事が退屈で苦痛になって退職をしたのだという。

公務員の前は百貨店の営業マンとして日本全国を飛び回っていたそうだ。

 

百貨店時代は休みも無く仕事ばかりの毎日で、常に上司から成果を求められる高圧的な環境に疲れてしまった。

落ち着いて腰を据えて出来る職場が良いと環境が180度違う公務員の中途採用に応募し採用されたため転職したのだと。

 

私は百貨店の外商を知っていたので、その大変さは容易に想像できる。客は違えど同じ百貨店営業だ。

百貨店営業は忖度なんて優しいものじゃ立ち行かない。商品ではなく、営業マンの自分を気に入って貰って売上になるという世界だ。

 

公務員の中途採用だって、このご時世ごまんと応募はあるだろうしその中で公僕として仕事のできる人を選ぶのだから選抜は厳しい筈だ。

 

 

あぁ、この立ち振る舞いなら問題なく百貨店でもやれていただろうし、公務員にもなれたのだろうと思った。

 

 

しかし、安心安定業績連動無し給与カット倒産の無い親方日の丸の仕事に就いて初めてわかったことは、つくづく自分は年功序列の仕事は向いていなかったということ。

 

 

同僚に仕事を締切より早く終わらせよう働きかければ和を乱すと注意され、仕事の効率化とコスト削減を提案すれば手順書を逸脱すると却下される。

 

声が大きいと注意され、場を盛り上げると注意される。

 

休暇が多過ぎる。

仕事の無駄が多過ぎる。

意味のない仕事が多過ぎる。

 

頑張った人もミスや手抜きばかりでお荷物状態な人も給与が同じ。

 

毎朝出社してお茶飲んで新聞を読むことが仕事になっている人がいる。

 

 

 どんなに自分に言い聞かせても、駄目だった。

我慢の限界を超えた。

お仕事楽チンアフター5エンジョイなんて生き方は本当に自分には向いていなかった。

 

 

全てが自分の思い通りになるような全て自分が満足のいく仕事なんてないと悟り、その中で何が我慢が出来て何が我慢できないかを考えだ時に、プレッシャーを背負ってでも成果報酬型の仕事が自分には良いとわかった。

 

男性の話を聞きながら、こんなにも淀みなく分かりやすく共感を得られる話し方で自分の気持ちを相手に伝えられるなら、やはりそれが向いているだろうと私も思った。

 

 

「50になってようやく自分のことがわかりました。50まで長い道のりがかかりましたよ、ハハハ。」

 

「そうなんですね。でも、50歳まで時間をかけてしまったしまったことに後悔はありますか?」

 

「ないですね。」

 

 

男性の笑顔は本当に清々しかった。

生き生きしていた。

 

 

次の仕事の開始まで休暇を取っているため、その期間にいろいろな仕事を経験してみたいと短期派遣に登録したとのことだった。

 

 

 

この日本で、自分に合う仕事合わない仕事を見つける為に何度もチャレンジする人間チャレンジができる人間はどれほどいるだろう。

 

たいていの人は合わない仕事をストレスを溜めながらも続けている。

又は合う仕事を見つける前に、合わない仕事を続けたせいで心身を壊してしまう。

 

仕事とは、そんなものだとみんなが諦めている。

 

 

私は彼の満面の笑顔を今でも思い出す。

帰りがけ、わざわざ私のところに挨拶に来てくれた。

 

 

ありがとうございました。

どうか、お元気で。

 

 

爽やかな笑顔で去って行った。